サントリーが営業に「AI軍師」を導入した話が、中小企業にとっても他人事じゃない理由
公開日:2026年03月18日

代表取締役
貝出康

「営業のコツって、結局は”あの人”の頭の中にしかないよね」
これ、営業の現場にいる人なら誰でも感じたことがあるんじゃないでしょうか。
トップ営業マンがいる。その人は、どんな飲食店にもスッと入っていって、店長と仲良くなって、気づけば棚の一等地に自社商品を並べてもらっている。でも、その人のノウハウって、なぜか他の人に伝わらないんですよね。
「あれは◯◯さんだからできるんだよ」で片付けられてしまう。
私はカンマンという会社でAI活用やWebマーケティングの支援をしているんですが、この「ナレッジの属人化」問題は、本当にどこの会社でも聞く話なんです。
で、この問題に対して、あのサントリーがめちゃくちゃ面白いアプローチを取ったんですよ。
その名も「AI軍師」。
名前からしてもう強そうじゃないですか。三国志の諸葛孔明的な。実際、やっていることもかなり「軍師」っぽいんです。今日はこの話を深掘りしていきます。
サントリーの「AI軍師」って何なのか
まず「AI軍師」とは何か。端的に言うと、サントリーの酒類営業部門に導入された生成AIシステムです。
日経クロステックや日本経済新聞の報道によると、2025年11月にサントリーが酒類営業向けに導入したこのシステムは、営業社員が自然な文章で質問を入力すると、過去に蓄積された約3万件の営業知見の中から、関連する事例や打ち手を引っ張ってきて、わかりやすくまとめて提示してくれるものです。
たとえば「居酒屋チェーンに新商品のハイボールを提案したいけど、どんなアプローチがいいか?」みたいな質問をすると、過去の成功事例や提案のコツをAIがまとめて返してくれる。
これ、めちゃくちゃすごくないですか。
普通なら「あ、それは◯◯支店の△△さんが得意だから聞いてみて」で終わる話が、AIに聞くだけで答えが返ってくるわけです。しかも3万件の知見ベースで。人間の記憶力じゃ絶対に無理な量の情報を、瞬時に整理して出してくれる。
開発を主導したのは、サントリーホールディングスのデジタル本部情報システム部先端技術グループ。名前から察するに、社内でもかなりテック寄りのチームですね。
なぜ「軍師」という名前なのか
ここがまた面白いんですけど、「AI軍師」という名前には明確な意図があるんです。
営業社員の課題に対して、戦略や戦術を進言する「軍師」のような役割を担う——というコンセプトで名付けられています。
つまり、単なる「検索ツール」じゃないんですよ。
検索ツールだったら「ハイボール 提案 事例」みたいなキーワードを入れて、ヒットした文書を読む、という作業になる。でもAI軍師は違う。「こういう状況で困ってるんだけど、どうしたらいい?」という相談に対して、複数の知見を統合して「こうするといいですよ」と助言してくれる。
検索と相談って、似てるようで全然違うんです。
検索は「自分で答えを探しに行く」行為。相談は「誰かに答えを導いてもらう」行為。AI軍師は後者なんですね。だから「軍師」なんです。
15年間のナレッジ蓄積が土台になっている
ここで注目したいのが、AI軍師は突然ポンと出てきたわけじゃないということです。
サントリーでは、2009年から「KACHI・ネタ・BANK」(通称:カチネタ)という営業ナレッジデータベースを運用しています。酒類営業の現場で生まれた工夫や好事例を、社員が投稿・共有する仕組みです。
15年以上にわたって蓄積された営業知見が約3万件。この膨大なデータベースが、AI軍師の「脳」になっているわけです。
私がこの話で一番感心したのは、実はここなんです。
生成AIの導入って、今すごく流行ってますよね。ChatGPTを入れました、社内チャットボット作りました、みたいな話はあちこちで聞きます。でも、その多くは「AIに何を食わせるか」の部分が弱い。
汎用的なAIモデルに「うちの営業のことを教えて」と聞いても、当然ながらまともな答えは返ってこない。自社固有の知見やノウハウがデータとして整理されていないと、AIは力を発揮できないんです。
サントリーの場合は、15年間コツコツと営業知見をデータベース化してきた。だからこそ、生成AIを載せたときに「使える」システムになった。
これ、順番がすごく大事なんですよね。「まずAIを入れよう」じゃなくて、「まずデータを整えよう」が先なんです。
技術的に何が起きているのか——RAGという仕組み
ちょっと技術的な話もしておきますね。難しくならないように書きます。
AI軍師のようなシステムの背景には、「RAG」(ラグ)と呼ばれる仕組みがあると考えられます。RAGは「Retrieval Augmented Generation」の略で、日本語に訳すと「検索で補強された文章生成」みたいな意味です。
どういうことかというと、こんな流れで動きます。
まず、営業社員が質問を入力する。すると、AIはまず社内のナレッジデータベース(カチネタに蓄積された3万件の知見)を検索して、質問に関連する情報を引っ張ってくる。次に、その検索結果をもとに、生成AIが自然な文章で回答をまとめる。
つまり、AIが「自分の知識」で答えるんじゃなくて、「社内の知見を検索して、それを読み込んだ上で」答えるんです。
これのメリットは大きく2つあります。
1つ目は、回答の根拠が社内の実績に基づいていること。AIが勝手に作り話をする(いわゆる「ハルシネーション」)リスクが大幅に減ります。
2つ目は、社内の情報が更新されれば、AIの回答も自動的に新しくなること。モデルを再学習させる必要がないんです。
NTTデータの調査によると、RAGを活用した社内ナレッジシステムの導入で、問い合わせの約70%がAIで完結し、応答時間が平均48時間から即時に改善された事例もあるそうです。
サントリーの生成AI活用は「AI軍師」だけじゃない
サントリーのAI活用がすごいのは、AI軍師が単発の取り組みじゃないところです。
サントリーでは2023年5月から生成AIの業務活用に取り組んでいて、自社専用のChatGPT環境「ガウディ」を開発・展開しています。「ガウディ」は国内従業員約19,000名を対象に導入されていて、日常的な業務の中で生成AIを使う文化が根付き始めています。
さらに、50歳以上の全社員に対して生成AIの研修を実施したり、グループ会社向けに「ChatGPTマスター育成研修」を開催したりもしています。研修を受けたグループ会社では、ガウディの1日あたりの利用者数が2倍に増えたという報告もあります。
ギブリー社の支援のもと、「生成AIアンバサダー」を各部門に育成する取り組みも進めています。
つまり、サントリーは「ツールを入れて終わり」じゃなくて、「人が使えるようになるまでフォローする」というところまでやっているわけです。
これ、地味に見えるかもしれませんが、実はここが一番大事なんですよ。
なぜ「AI軍師」が中小企業にも関係あるのか
「でも、サントリーは大企業だからできるんでしょ?うちには関係ないよ」
そう思った方、ちょっと待ってください。
たしかに、3万件のナレッジデータベースを15年かけて作るのは、中小企業にはハードルが高いかもしれません。でも、AI軍師のコンセプト——「属人化した営業知見をAIで誰でもアクセスできるようにする」——は、むしろ中小企業のほうが切実に必要としている話なんです。
中小企業って、大企業以上に「あの人がいないと回らない」状態になりやすいじゃないですか。
エースの営業マンが辞めたら売上が激減する。ベテランの技術者が定年退職したら、あのノウハウはどこにも残ってない。これ、中小企業あるあるですよね。
中小企業庁の2025年版中小企業白書でも、中小企業のデジタル化やDXの推進は依然として課題として挙げられています。生成AIの導入率は中小企業ではまだ5%程度にとどまっているという調査結果もあります。
でも、だからこそチャンスでもあるんです。
今は、以前と比べて生成AIを導入するハードルがものすごく下がっています。月額数千円のサービスで、社内のドキュメントをAIに読み込ませて、チャットで質問できるシステムが作れる時代になっている。
サントリーがやったことを、もっと小さなスケールで再現することは十分に可能なんです。
中小企業が「自社版AI軍師」を作るための3つのステップ
じゃあ、具体的にどうすればいいのか。私がこれまでカンマンでAI活用の支援をしてきた経験から、3つのステップをお伝えします。
ステップ1:まず「書き残す」仕組みを作る
AI軍師の土台は、15年間のナレッジ蓄積でした。じゃあ中小企業も15年待たないといけないのかというと、そんなことはありません。
まずは、営業日報や商談メモ、提案書、問い合わせ対応の記録など、今ある情報を「テキストデータとして残す」ことから始めればいいんです。
多くの会社では、こういった情報がメールの中に埋もれていたり、個人のメモ帳に書かれていたり、そもそもどこにも記録されていなかったりします。
まずは、NotionでもGoogleドキュメントでも何でもいいので、「チームの知見を一カ所にまとめる場所」を作る。これが第一歩です。
ステップ2:AIに「食わせる」データを整える
ある程度データが溜まったら、次はそれをAIが読みやすい形に整えます。
たとえば、「株式会社◯◯への提案で、△△という切り口が刺さった。理由は□□だったから」みたいな形式で、成功事例と失敗事例を構造化していく。
このとき大事なのは、完璧を目指さないこと。50件くらいの事例があれば、AIは十分に有用な回答を返せるようになります。3万件なんてなくても大丈夫です。
ステップ3:RAG対応のAIツールに接続する
最後に、整えたデータをRAG対応のAIチャットサービスに接続します。
2026年現在、こうしたサービスは選択肢が豊富です。ラクスルの「ナレフルチャット」、NTTデータのRAGソリューション、あるいはMicrosoft Copilotの社内データ連携機能など、予算や規模に応じて選べます。
月額数万円の投資で、自社の営業ナレッジに基づいてアドバイスしてくれる「ミニAI軍師」が手に入る。これ、コスパで考えたら相当いいと思いませんか。
「AI軍師」から学ぶべき、もっと大事なこと
ここまで具体的な話をしてきましたが、私がサントリーのAI軍師から一番学ぶべきだと思っていることがあります。
それは、「AIは人の代わりじゃなくて、人の知恵を増幅する道具だ」ということです。
AI軍師は、営業マンを代替するものじゃないんですよ。あくまで「軍師」です。最終的に戦うのは、現場の営業社員自身。AIは参謀として知恵を授けるけれど、お客様の前に立って信頼関係を築くのは人間の仕事。
この役割分担がすごく明確なんです。
サントリーHDの新浪剛史会長は、AI活用について「やってみなはれ」の精神で積極的に取り組む姿勢を示しています。これはサントリーの企業文化そのものですが、同時に「まず使ってみて、失敗してもいいから学んでいこう」というメッセージでもあります。
私はこの考え方に強く共感します。
生成AIに対して「難しそう」「うちには早い」と思っている経営者の方、本当に多いんです。でも、サントリーだって最初から完璧だったわけじゃない。2009年にカチネタという地道なナレッジ共有の仕組みを作り、2023年にガウディで生成AIの全社導入を始め、そして2025年にAI軍師にたどり着いた。
一歩ずつ、着実に進んできた結果なんです。
よくある誤解——「AIを入れれば勝手にうまくいく」
ここで、生成AIに関してよくある誤解について触れておきます。
「ChatGPTがあるんだから、それを使えばいいんじゃないの?」という声、本当によく聞くんです。
たしかに、ChatGPTやGeminiのような汎用AIは非常に優秀です。でも、汎用AIに「うちの得意先の◯◯酒店に、来月の新商品をどう提案すればいい?」と聞いても、的を射た答えは返ってきません。なぜなら、あなたの会社の商品ラインナップも、◯◯酒店の特性も、過去の取引履歴も、汎用AIは何一つ知らないからです。
AI軍師が「使える」のは、サントリー固有の3万件の知見がベースにあるから。汎用AIの上に、自社のデータを組み合わせて初めて、実用的な営業支援ツールになるんです。
もう一つの誤解。「AIに任せれば、営業の人数を減らせる」。
これも違います。サントリーのAI軍師は、営業社員を減らすためのツールではなく、営業社員一人ひとりのスキルを底上げするためのツールです。この違いは非常に大きい。
コスト削減の道具として見るか、能力向上の道具として見るか。この視点の違いが、AI導入の成否を分けると私は思っています。
酒類業界だからこそのAI活用の可能性
もう一つ注目したいのは、「酒類営業」という領域にAIを導入したという点です。
酒類の営業って、実はものすごく複雑なんです。
まず、取引先が多岐にわたる。居酒屋、レストラン、バー、ホテル、スーパー、コンビニ——それぞれまったく異なるアプローチが必要です。居酒屋チェーンに刺さる提案と、高級レストランに刺さる提案は全然違う。
さらに、季節要因が大きい。夏はビールやハイボール、冬は日本酒やホットウイスキー。イベントシーズンにはシャンパンやスパークリングワインの需要が増える。
そして、法規制もある。酒類の販売には免許が必要だし、広告にも制約がある。
こういう複雑な領域だからこそ、3万件の知見をAIが瞬時に検索・統合して最適なアドバイスを出せることの価値は計り知れません。
人間の脳だと「あ、似たような案件が前にあったな……」とうっすら思い出すのが精一杯ですけど、AIなら3万件を全部見た上で「この5件が参考になります」と出してくれる。
これは「量」の問題であり、「質」の問題でもあります。
サントリーとGlobant——グローバルでもAI活用が加速
ちなみに、サントリーのAI活用は日本国内だけの話ではありません。
サントリーグローバルスピリッツ(ジムビームやメーカーズマークなどのブランドを持つ海外事業会社)は、アルゼンチンのテック企業Globant社と提携して、生成AIを活用した「Commercial Insights Agent」を構築しています。
このシステムは、マーケティング、営業、商品開発、戦略立案など幅広い部門で、社内データに基づいたAIの洞察を引き出せるもの。日本のAI軍師と似たコンセプトですが、グローバル規模でのデータ活用を目指している点がスケールの大きさを感じさせます。
GoSpotCheck社の画像認識AIを営業チームに導入して、店頭の棚の状態をAIで分析する取り組みも進んでいます。
サントリーグループ全体として、「AI基本方針」を策定し、グループ全社でAIの活用と倫理的なガバナンスを両立させようとしている。この組織的な取り組みの厚みが、個別のAIツール(AI軍師など)を支えているわけです。
カンマンが考える「営業×AI」の未来
ここからは、私たちカンマンの立場での見解を少しお話しさせてください。
私たちはWebマーケティングやAI活用の支援を、特に中小企業や地方企業に対して行っています。その中で、営業のデジタル化・AI活用については、こんなことを感じています。
まず、「AIで営業が不要になる」はウソです。少なくとも、しばらくは。
特にBtoBの営業、とりわけ酒類のようなルート営業では、人間関係や信頼が取引の大きな部分を占めます。AIがいくら賢くなっても、お得意先の店長と一緒に飲みに行くことはできない。
でも、AIが得意なこともたくさんあるんです。
過去の膨大な事例から最適な提案パターンを見つけること。新人営業マンにベテランの知見を伝えること。市場データや競合情報を整理して、戦略の材料を揃えること。
つまり、「人がやるべきこと」と「AIに任せたほうがいいこと」を切り分けて、両方を上手に使いこなすのが正解なんです。
これは営業に限った話じゃありません。カスタマーサポートでも、マーケティングでも、経理でも、同じ構図です。
カンマンでは、こうした「人間×AI」の最適な組み合わせを、お客様ごとに設計するお手伝いをしています。大企業のような大規模な投資は必要ありません。まずは小さく始めて、効果を実感しながら広げていく。それが中小企業にとって一番現実的なアプローチだと、私たちは考えています。
まとめ——「AI軍師」が教えてくれる、AI活用の本質
最後に、今日の話をまとめます。
サントリーのAI軍師は、単なる「最新テクノロジーの導入事例」ではありません。そこには、15年間にわたるナレッジ蓄積の歴史と、全社的なAIリテラシー向上の取り組みと、「人を助けるためのAI」という明確な思想がある。
私がこの事例から導き出すポイントは3つです。
1つ目。AIの成功は「データの蓄積」から始まる。いきなりAIを入れても、食わせるデータがなければ宝の持ち腐れ。まずはナレッジを「書き残す」習慣を作ること。
2つ目。AIは「代替」じゃなく「増幅」の道具。営業マンをクビにするためのものじゃなく、営業マンをもっと強くするためのもの。この思想が、現場の納得感と活用率を左右する。
3つ目。「やってみなはれ」の精神が大事。完璧な計画を立ててからスタートするんじゃなくて、小さく始めて走りながら改善する。サントリーですらそうやってきたんだから、中小企業はなおさらそのアプローチでいい。
「うちの会社でも、AI軍師みたいなことってできるの?」
できます。規模は違っても、考え方は同じです。
まずは今日からでも、営業チームの「いい話」を1つ、テキストに残すことから始めてみてください。それが、あなたの会社の「AI軍師」の第一歩になるはずです。
参考情報 – 日経クロステック「サントリーが営業に『AI軍師』、3万件の知見から瞬時にアドバイス」 – 日本経済新聞「サントリー、営業スキル向上へ『AI軍師』 現場の知見を的確に共有」 – ギブリー プレスリリース「サントリーグループの生成AI活用を支援」 – サントリー公式サイト「AI活用による需給改革」 – Suntory Global Spirits × Globant プレスリリース – 中小企業庁「2025年版 中小企業白書」 – NTTデータ「生成AI活用におけるRAG導入のポイント」
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代表取締役
貝出康
1963年徳島市生まれ。 1999年に楽天の三木谷社長の講演を聴き、イン ターネット時代の到来を悟る。翌年、ホームペ ージ制作会社カンマン設立に参画し、これまで のキャリアで培った営業や人事のスキルを活か しての顧客開拓や社内・労務管理を実践。2019 年〜代表取締役。









